一粒の砂に
世界を見る
砂浜には「守りたい」という気持ちにさせる、
何か人を惹きつける魅力があるのです。
先生の研究について教えていただけますか?
海岸工学が専門で、特に砂浜地形に関連する研究を行っています。最近は、土砂が山頂から川を経て海までどのように運ばれ、砂浜地形にどのような影響があるかを調べています。土砂は、山?川?海の各領域で異なるメカニズムで輸送されるため、各領域での研究を統合して全体像を捉える必要があります。これらの各領域における知見の統合に取り組んでいる研究者は少なく、多くのことが未解明のまま残されています。様々な現地観測データを活用して数値シミュレーションを実施し、そのプロセスを明らかにすることを目指しています。
特に日本で海岸工学を研究することが重要なのはなぜですか?
日本には、他国とは異なる海岸の特性があるんです。例えば、国土は急峻で海に囲まれ、降雨、高潮、津波、地震など多くの自然災害があり、それらが絶えず地形を変化させています。その特性は国や地域によって大きく異なるため、各地域に合わせた評価や分析を行うために、それぞれの地域での研究が必要です。一方で、共通する特性もあるでしょう。日本では他国と比べても多くのデータが蓄積されており、日本で得られた知見を他国の評価に活用することもできればと考えています。
最初にこの研究に興味を持ったきっかけは何ですか?
学部生のころは、自分が何をしたいのかよく分かっていませんでした。正直なところ、あまり深く考えていませんでしたね(笑)。海岸工学を専門とする教授に感銘を受け、その研究室に入り、この分野に夢中になりました。
研究における典型的な一日はどのようなものですか?
若い頃は、多くの現地調査を行いました。これは時間がかかる非常に大変な作業です。台風や津波のような大きな災害の前後に、現地に直接行ってデータを収集する必要がありますが、前もっていつどこで起こるか正確には誰にも分からないため、タイミングが難しいのです。今は、衛星画像などを使った最新の地表面計測技術によって、多くの情報を簡単かつ遠隔で得ることができますが、若手の研究者には、現地を訪れ、現場をよく見て、自分が研究しているものを肌で感じてほしいと思っています。
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham
この研究は「実社会」にどのような影響を与えますか?
砂浜の地形変化に及ぼす気候変動の影響評価や適応策に関する研究にも取り組んでいますが、砂浜には人々を「守りたい」という気持ちにさせる、何か人を惹きつける魅力があります。私の研究は、砂浜を含む地域全体を将来どのように管理していくのか、長期的な計画を立てるのに役立ちます。市民の皆さんの知識が深まれば深まるほど、5年、10年、50年先の沿岸環境を協力して守っていくことができるのです。
2011年に起きた東北地方太平洋沖地震の時、被災地にいらっしゃいましたか?
はい。当時、私は妊娠していて、津波の被害を調査する上で非常に重要な時期だったにもかかわらず、現地調査に行くことができませんでした。その代わりに、衛星画像を使って海岸線への影響について詳細な分析を発表しました。また、被災された方々と協働する機会も何度かありました。
その協働はどのようなものでしたか?
被災地の方々とお会いし、壊滅的な被害を受けた海岸の復旧プロセスについて話し合いました。防潮堤が破壊されたため、新しいものをどのように建設するか、相談を受けました。直観に反するかもしれませんが、巨大な津波に襲われたばかりにもかかわらず、地域の方々は砂浜を維持することを強く希望し、そのために県が計画した防潮堤の高さを下げることを望んでいました。私は衝撃を受けました。彼らにとって、砂浜は希望の象徴だったのです。この経験から、海岸環境や利用に関する人々の価値観は数値化するのが難しく見過ごされがちですが、重要な要素なのだと理解しました。人々の価値観を客観的に評価し、それを沿岸の計画や管理に組み込むための手法を開発することは、困難ですが極めて重要だと考え、その研究に取り組んでいます。これは、気候変動の適応策を検討する上でも活用できる知見になります。
何かご趣味はありますか?
マリンスポーツは全くしないんです!(笑)一度サーフィンを試したのですが、私には合いませんでした。将棋を指す方が好きです。パンデミックがピークだった頃にオンライン将棋を始めて、今でも時間があるときに指しています。
写真:海岸の崖の侵食に関する研究のために収集された岩石標本。岩石は、東北の七ヶ浜や南三陸といった身近な場所から、遠くは四国まで、日本各地で採集されました。
有働 恵子
有働恵子教授は、土砂が山地から河川を経て海岸に運ばれる仕組み、そして人々の価値観の評価に関する研究を通じて、私たちが海岸をどのように守れるのかを研究しています。学識経験者として、国土管理に関する国や地方自治体の審議会等の委員を多数務め、政策に関する助言を行っています。筑波大学で修士号と博士号を取得し、海岸工学の知識を深めました。現在は東北大学大学院工学研究科の教授として、学生たちを指導しています。多くの留学生を受け入れ、特にアジア?アフリカにおける国際共同研究を推進しています。

Translation: Waka Kuchimachi
Romance
of
亲朋棋牌