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あらゆる材料に適用可能な量子ビット評価手法を確立 ―二次元材料?ヘテロ構造まで網羅―

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 准教授 金井駿
ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 材料中の量子ビット(注1)の安定性を高速に判定する新手法を開発しました。
  • 三次元材料に限られていた安定性評価法を、二次元材料やヘテロ構造材料へ拡張する理論を世界で初めて確立し、安定性の高い190種類の二次元材料を特定しました。
  • AI時代に不可欠な量子コンピューターや量子センサーなど、あらゆる量子デバイス開発の共通指針として活用が期待されます。

【概要】

量子コンピューター向け材料を見分ける新しい方法を発見しました。

東北大学の金井駿准教授、米国シカゴ大学及び米国アルゴンヌ国立研究所のジューリア ガリ教授、マイケル トリヤマ博士らの研究チームは、材料内部の磁気的な揺らぎが量子状態を乱す仕組みに注目し、計算科学を使って量子状態の安定性を高速に予測する手法を開発しました。

特に、従来は三次元の材料のみが評価可能でしたが、今回、二次元材料や積層構造まで解析を広げることで、より実在材料に近い環境で量子状態の安定性を予測することに成功しました。約千種類の候補から190種類の有望な材料を抽出し、中でも代表的な二次元材料である二硫化タングステン(WS?)では、きわめて長い時間(35ミリ秒(ミリ秒は1000分の1秒))量子状態が持続することを予測しました。

この手法は、数万種類規模の新材料設計にも応用でき、将来的には量子コンピューターの心臓部となる素子や、超高感度な量子センサーの開発を大きく前進させることが期待されます。

本成果は2025年11月26日付で、npj 2D Materials and Applicationsに掲載されました。

図1. 位相緩和時間(T?)の計算研究の発展史
1925~26年に量子力学の基礎方程式(シュレディンガー方程式?ハイゼンベルグ方程式)が確立した。1972年にT?計算の理論原理が提案されたものの、実在材料では膨大な行列計算のため実用的な解析は困難だったが、2008年にクラスター相関展開法(CCE)により実用的な近似計算が可能となった。2021年に東北大学?シカゴ大学の共同研究により、三次元材料のT?を代数的に表現できる「一般化スケーリング則」が発見された。本研究はこの理論を二次元およびヘテロ構造材料へと拡張するものである。

【用語解説】

注1)量子ビット
ある物質のサイズを小さくしていくと、量子的性質が発現することがあります。例えば「スピン」と呼ばれる磁性の源の持つ量子的性質はナノメートル(10億分の1メートル)以下のスケールで顕著に見られ、微細加工技術の進展とともに様々な関連現象が発見されてきました。この量子的性質には古典物性とは異なる様々な特徴があります。その1つに「2つの量子状態を同時に取ることができる」という性質があります。
電子には、磁性の源となるスピンという性質があります。自由電子の場合には上向きと下向きの2つの状態を取ることができ、これがビット(情報の最小単位)の「0」と「1」の状態に対応します。ハードディスクなどの磁性メモリでは、たくさんの自由電子スピンがそろっており、そのスピン方向が古典ビットと対応します。これらのデバイスでは、電子スピンが最低でも数万というオーダーで集まっており、量子的性質は見られません。一方で、孤立スピン中心のように単一か、それに近い数のスピンでは、スピンは上向きと下向きの状態両方を「同時に取る」ことができます。
全ての原子は原子核と電子により構成されます。原子核は中性子と陽子により構成されます。中性子と陽子はそれぞれスピンを持ちますが、この大きさは自由電子のスピンの大きさと比較して約1000分の1です。原子核全体としてのスピンは陽子や中性子のスピンが複雑に合成され、その大きさを表すのがg因子です。
量子ビットの2つのビット状態を「同時に取る」ことが可能な性質を利用し、2状態を重ね合わせた状態を同時に計算するのが量子計算や量子コンピューターです。量子コンピューターは古典コンピューターと比較して桁違いに高速に問題を解決することができる場合があることが示されています。例えば古典コンピューターが苦手とし、現代の暗号通信の基盤となっている素因数分解を高速に計算するアルゴリズムが開発されています。

【論文情報】

タイトル:Strategies to search for two-dimensional materials with long spin qubit coherence time
著者:Michael Y. Toriyama, Jiawei Zhan, Shun Kanai, Giulia Galli
掲載誌:npj 2D Materials and Applications
DOI:10.1038/s41699-025-00623-8
(Preprint基礎情報:arXiv:2509.00222)

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 金井 駿
電話 022-217-5555
E-mail skanai*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)

(兼)東北大学大学院工学研究科電子工学専攻
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター(CSIS)
(兼)東北大学高等研究機構 新領域創成部
(兼)東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
(兼)量子科学技術研究開発機構(QST)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
電話 022-217-5420
E-mail riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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