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バース症候群モデル動物や細胞においてミトコンドリア機能改善薬MA-5の有効性を確認 希少難病の心筋症?骨格筋障害を改善する新たな治療法の可能性

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科 病態液性制御学分野 
教授 阿部高明
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • バース症候群(注1)患者由来の細胞およびiPS細胞から作成した筋肉細胞において、ミトコンドリアに作用する薬Mitochonic Acid 5 (MA-5) (注2)がバース症候群の病態を改善することを発見しました。
  • MA-5はATP(注3産生を増加させ、酸化ストレスによる細胞死を抑制しました。ショウジョウバエのバース症候群モデルにおいても、MA-5は運動機能を改善し、心拍数異常増加を軽減することを見出しました。
  • MA-5はミトコンドリアのクリステ構造(注4を改善し、ATP合成酵素の機能を向上させるメカニズムで、バース症候群の新規治療薬となる可能性があります。

【概要】

バース症候群(BTHS)は、Tafazzin (TAZ) 遺伝子(注5)の変異により起こる珍しい遺伝性の病気で、この変異を持った男性で発症し、心筋症(注6)、骨格筋障害(注7)、好中球減少症(注8)の症状が現れます。現在、この病気を根本的に治す方法はなく、症状を和らげる治療しかできません。

東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野および医工学研究科分子病態医工学分野の阿部高明教授、東北大学病院の豊原敬文准教授らの研究グループは、バース症候群の患者から採取した皮膚の細胞およびiPS細胞から作った筋肉細胞を用いて、MA-5がバース症候群の病態を改善することを発見しました。MA-5を加えることで、ミトコンドリア機能を改善し、ATP産生を増加させ、酸化ストレスによる細胞死が減少しました。さらに、ショウジョウバエのバース症候群モデルでは、MA-5を与えると運動能力が向上し、心拍数の異常増加が軽減しました。そのメカニズムは、MA-5がミトフィリン(注9)と結合することでミトコンドリアのクリステ構造を改善し、ATP合成酵素の働きを助けて効率的なエネルギー産生を実現することで治療効果を発揮すると考えられ、バース症候群の新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。

本研究成果は2025年6月21日に科学誌The FASEB Journalに掲載されました。


A. バース症候群モデル   B. バース症候群モデル+MA-5

図1. ミトコンドリア機能改善薬MA-5のバース症候群モデル動物や細胞における有効性を確認

【用語解説】

注1.バース症候群:TAZ遺伝子の変異により引き起こされる希少な遺伝性疾患。心筋症、骨格筋障害、好中球減少症、成長遅延などを特徴とする。

注2. Mitochonic Acid 5 (MA-5):植物ホルモンのインドール-3-酢酸から開発されたミトコンドリア治療薬、ミトフィリンに結合し、ATP合成を促進する。

注3. ATP:ATP(アデノシン三リン酸、Adenosine Triphosphate)は、細胞内でエネルギーを貯蔵?供給する最も重要な分子です。ATPは「生命のエネルギー通貨」と呼ばれ、すべての生物にとって不可欠な分子です。

注4.クリステ構造:クリステ構造は、ミトコンドリアの内膜が折りたたまれて形成される構造です。クリステはミトコンドリアの効率的なATP産生のための巧妙な構造設計です。

注5. Tafazzin (TAZ) 遺伝子:Tafazzin (TAZ) 遺伝子は、ミトコンドリアの脂質代謝に関わる重要な遺伝子です。この遺伝子から作られる酵素タンパク質はミトコンドリア内膜特有のリン脂質カルジオリピンの成熟型への変換に関与し、クリステ構造の形成?維持に必須で、さらにミトコンドリアのATP合成の機能を安定化します。

注6. 心筋症:心筋症は、心筋の構造や機能に異常をきたす疾患群です。心筋症は多様な病態を示す疾患群であり、個々の患者に応じた包括的な管理が必要です。

注7.骨格筋障害:骨格筋障害は、骨格筋の構造や機能に異常をきたす疾患群です。骨格筋障害は多様な原因と病態を示す疾患群であり、個々の患者の状態に応じた包括的な長期管理が重要です。

注8. 好中球減少症:好中球減少症は、血液中の好中球数が正常値より少ない状態です。好中球減少症は感染症リスクが高い状態であり、早期診断?適切な管理が生命予後を左右します。

注9. ミトフィリン(IMMT/Mic60):ミトコンドリアのクリステ接合部に存在するタンパク質。ミトコンドリアの構造維持に重要な役割を果たす。

【論文情報】

タイトル:Mitochondria-Homing Drug Mitochonic Acid 5 Improves Barth Syndrome Myopathy in a Human-Induced Pluripotent Stem Cell Model and Barth Syndrome Drosophila Model
著者:Yoshiyasu Tongu, Tomoko Kasahara, Tetsuro Matsuhashi, Yoshitsugu Oikawa, Ryota Akimoto, YuhanLuo, Sayaka Sekine, Momoka Suzuki, Hitomi Kashiwagi, Shinichiro Kanno, Yoshikazu Tanaka, Kyohei Sato, Yusuke Okubo, Hidetaka Tokuno, Chitose Suzuki, Chiharu Kawabe, Takamasa Ishikawa,Shun Watanabe, Koichi Kikuchi, Takeya Sato, Takehiro Suzuki, Kazuhiro Igarashi, Shinji Fukuda, Tomoyoshi Soga, Kei Murayama, Erina Kuranaga, Takafumi Toyohara* and Takaaki Abe*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科、大学院医工学研究科教授 阿部高明、東北大学病院腎臓高血圧内科准教授 豊原敬文
掲載誌:FASEB Journal
DOI:10.1096/fj.202401856RRR

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問い合わせ先

(研究に関すること)

東北大学大学院医学系研究科?大学院医工学研究科
教授 阿部 高明(あべ たかあき)
TEL: 022-717-7200
Email: takaaki.abe.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
TEL:022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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